hal*hal

虎さんと鹿さんのおとぎ話。

はじめに(必読)

このブログについて***

はじめまして、naveと申します。
まずは、こんなところを見つけていただき、ありがとうございます。

ユノとチャンミンの名前と容姿、イメージをお借りして、お話を書いています。
お話に出てくる2人やその他の方々は、本人とは一切関係がありません。
あくまでもわたしの創りあげたお話、お伽話です。
FF・BLにご理解頂ける方のみお読みくださいませ。

*FF・BLに嫌悪感がある
*東方神起は2人と認めていない
*2人が乗り越えた過去をいまだに求めている
*自分の考えと異なるものに攻撃的になる
以上の方は、読まずにそっとページを閉じていただけると幸いです。

わたしは、価値観・考え方・物事の捉え方や受け止め方、そして対処や消化の仕方は、人間が存在する数ほどあると思っています。
だから、誰のことも否定はしたくないです。
違いはあって当たり前で、受け容れる必要はないけれど、そういうものもあるんだと理解することは、とても大切だと思います。
わたしは、なるべく多くを傷つけない方法を選びます。
それは、自分の心も含めて。

ここを開くにあたって、「どうして今?」と思われる方もいるだろうなぁ、とは思いました。
元々は、2019年11月にお話を書き始めていて、ある程度たまったらブログを開設しようとしていました。
それがまぁ、トンペン界もちょびっと様子が変わってしまったので、開設することはやめようとも考えました。
でも、ずっと書きたかったのです。
だからひっそりと、始めてみることにしました。

わたしは変わらずに、ホミンが好きです。
彼らの間に流れる空気感や結びつきは、ひとことでは表せない、ひとつの形では括れないものだと思っています。
神格化するつもりはないけれど、2人の魂が美しいのは紛れもなく。
それはどこまでも真摯なパフォーマンスに現れている。見ていて切なくなるほどです。

だからわたしは、ステージの上の2人がとてもとても、好きです。
様々なことが変わっても、変わらないことがある限り、わたしは2人をいつまでも見ていたいと思っています。

それでは、いつまで書けるものかはわかりませんが
どうぞゆるゆると、よろしくお願いいたします☺︎

2020.1.22 *nave

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アウトフォーカス .10


すっかり体が冷えてしまったチャンミンは、ユンホがシャワーから上がる前にベッドに潜り込んだ。
しばらくはあのまま、波の音とユンホがバスルームでたてる音を聞いていた。
目の前に広がる、月のない夜空に瞬く星たちを。
本当はユンホともう少し見ていたかったのに、と思いながら。

「チャンミン、起きてる?」
ユンホに呼ばれたのは、だいぶ体も温まり、うとうとしかけた頃だった。
「ん…?」
かぶっていたコンフォーターから顔を出すと、ベッドの横にユンホが立っている。
「あ、起きてた。」
そう言うと、ユンホがなぜかベッドに片膝を乗せた。
その動きにチャンミンは、一気に目が覚める。
「え、なにしてるの…。」
「もうちょっとそっち、端っこいって。」
「は…?なんで?」
「一緒に寝たらだめ?ベッド広いから良くない?」
あっけらかんと、とんでもないことを言い出したユンホに驚き、チャンミンはその顔をまじまじと見た。
ユンホはいたって平然としている。

少し前にも、こんなことがあった。
リビングのソファーで寝ていたユンホを起こした夜だ。
一緒に寝てもいいかと聞かれ、しかしあの時のユンホはすぐに、冗談だと言って自ら撤回した。
「また、冗談…?」
「へ?冗談?じゃないけど…。いいじゃん男同士なんだし。」
ユンホは戸惑うチャンミンの体をぐいぐいと押し、チャンミンは押されるがまま、ベッドの端へと追いやられた。
するとユンホは当たり前のように、コンフォーターをめくって入ってこようとする。
「ちょっと!はいってくんな!」
「え、冷たい。」
チャンミンがめくられたコンフォーターをぐいと掴むと、膝立ちのままユンホは拗ねたように口を尖らせる。
「冷たいとかじゃ…。」
チャンミンは言いかけて、ふと思い起こす。
そういえばあの夜、いつもと違った様子のユンホは「ひとりで眠れない」と言っていたことを。
「もしかして、本当に眠れないの…?」
チャンミンは体を起こし、ユンホの顔を伺うように見た。
するとユンホは目を逸らし、顔を覆うように左手を額にあてた。
そして深いため息を吐き、ゆるゆると首を振ると「いや…、ごめん。」とこぼした。

正直わけがわからなかった。
あの夜も、今も。
まるで自分をコントロールできていないようなユンホに、チャンミンは動揺する。
だけど。
もしもユンホが何かに苦しんでいるのなら、力になりたい。
自分にできることがあるのなら。
いつだってユンホは寛大な心でチャンミンを受け入れてくれた。
それにどれだけ、救われただろうか。
チャンミンだって少しは大人になったのだ。
いつまでも守られてばかりではいられないと、思う。

掴んでいたコンフォーターをさらにギュッと握りしめると、チャンミンは「ユノヒョン。」と呼ぶ。
できればずっと、隠しておきたかった。
だけどユンホが一緒に寝たいと望むなら、それに応えるにはまず、チャンミンは自分のことを話しておかなければいけないと、思った。
「…もし、出て行けと言われるなら家は出て行く。でも仕事はクビにはしないでくれると嬉しい。僕はユノヒョンのところでまだ、学びたい。」
ユンホが覆っていた左手をおろし、驚いたようにチャンミンを見た。
「何、言ってんの?」
「僕ね。」
ユンホの顔は見られなかった。
「…ゲイ、なんだ。ごめんずっと言えてなくて。気持ち悪い、よね。」
チャンミンは俯くと、コンフォーターの上でぎゅっと握られた自分の手を見つめる。その手は小さく震えていた。
「ヒョンが何かに苦しんでて、もしそれで楽になるなら一緒に寝るくらい僕は構わないんだ。ヒョンのことは本当に家族みたいに思ってるから。だからそういう目で見たりしないけど…でもヒョンが気持ち悪いって思うかもしれないから、いつかバレるなら今言っておこうと…。」
「知ってたよ。」
まるで独白のように早口で話すチャンミンの声を遮って、ユンホの声が落ちてきた。
「え…?」
思わす顔をあげると、ユンホは困ったように笑っている。
「知ってたけど、気にしたことないんだ本当に。そんなの、それぞれの自由だろう?」
「…知ってたって、いつ、から。」
「忘れたけど、結構前だと思う。…もしかしてチャンミン、彼氏いる?」
「は?」
「彼氏いるなら一緒に寝たら浮気になっちゃうのかなーって。」
「い、いないよ!浮気って…!」

思いがけないところですることになったカミングアウトは、チャンミンが覚悟したようなことはなにも起こらなかった。
本当は、ゲイというだけで追い出すようなことをする人ではないことくらい、わかってはいたけれど。
チャンミンは、自分が「そう」だと気付いたきっかけが、ユンホだったことが後ろめたかったのかもしれない。

「そんな怒んないで?ごめんごめん。」
ユンホがチャンミンの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ちょっとやめて!」
チャンミンが頭をぶんぶんと振ると、ユンホの手がそっと離れた。
「言いたくないこと、言わせてごめん。知ってたくせにこんなこと頼む俺のほうがどうかしてた。」
チャンミンが顔をあげると、ユンホは眉を下げて優しく笑っていた。
「自分のベッドで寝るよ。おやすみ。」
「待って。」
ベッドから降りようとしたユンホをチャンミンは止めた。
ユンホが不思議そうにチャンミンを見る。
「言いたくなかったわけじゃないんだ。ユノヒョンに嫌われるのが怖かっただけで…、隠してるのはずっと苦しかった。だから、言えて良かった。ヒョンが知ってるとは思わなかったけど…気にしてないって言ってくれて、良かった。」
「…バカだなぁ。俺がお前を嫌うなんてこと、あるわけないだろ。」
ユンホの声はひどく優しくチャンミンの耳に響き、その言葉を純粋に嬉しいと思った。
今までずっとどこか不安だったこと、そのすべてがユンホの一言で払拭された気がして。
「ユノヒョン。僕も、ヒョンが言いたくないことは何も聞かないよ。だから、眠れないなら一緒に寝よう?」
「チャンミン…。」
ユンホが目を丸くして、チャンミンの顔を見つめる。
「そういえば昔、うちの居間でよく布団並べて一緒に寝たよね。覚えてる?おじいちゃんに寝相が一緒だって、笑われてさ。」
チャンミンはユンホに見つめられていることが恥ずかしくなって、ぽすんと枕に頭をのせて横になった。
「除隊した日もそうだ。僕泣きながらヒョンに抱きついてて、しかもそのまま寝ちゃって。ヒョンもしかたなくそこで寝たんだよね。起きたらヒョンに抱きついてて、びっくりしたんだった。」
チャンミンは、恥ずかしさをごまかすように早口で昔のことを話しながら、思い出してはふふふと笑った。
「ほら、ユノヒョンも横になって。ベッド広いんだから、大丈夫だよ。」
そう言ってチャンミンは、ユンホに背を向けるようにして横向きになった。

いつだって、ユンホは寛大な心でチャンミンを受け入れてくれる。
チャンミンはいつも、そんなユンホに救われてきた。
だから自分に差し出せる手があって、ユンホがそれを必要とするのなら、いくらでも差し出したいとチャンミンは思った。

少し間があいて、ベッドがくんと沈む。
半分めくっていたコンフォートがかけられ、「ありがとう。」と言うユンホの声が、とても近くで聞こえた。
触れていなくても感じる体温に、チャンミンはなんだかとても、平らかな気持ちになる。
「…なんかどんどん、大人になっていくね。」
ぽつりと呟くユンホの声をチャンミンはまどろむ意識の中で聞いた。

その夜を機に、ユンホは時々、チャンミンのベッドで眠るようになるのだった。



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アウトフォーカス .09


車のラゲッジに荷物を積み込むと、チャンミンは勢いよくドアを閉めた。
昨日から撮影のため、済州島に来ている。
最近のユンホの仕事のなかではめずらしい風景写真の撮影で、モデルやスタッフがいるわけでもなく、ふたりきり。
ユンホはまるで旅行気分のようで、終始機嫌が良かった。
今日はレンタカーを借りて、朝から撮影をしてまわっていた。空はもうすっかり夜の色をしている。
重たい機材を抱え、思うまま動くユンホに着いて歩いたチャンミンの体は、くったりと疲れていた。
ユンホは相変わらず機嫌良さそうに、鼻歌なんて歌いながらカメラの画面で写真を確認している。
チャンミンはその様子を横目で見ながら、小さくため息を吐いた。

先日事務所でシウに会ってからずっと、心がどこか落ち着かない。
ただこの落ち着かなさが、自分がゲイだとユンホにバレるかもしれないことに対してなのか、ユンホが男も抱けるのだと知ってしまったことに対してなのか、どちらなのかがチャンミンにもよくわからなかった。
車に背を預け、夜空を仰ぐ。
ソウルではなかなか見ることのできない数の星が瞬いていて、その美しさにチャンミンは、ほぅと感嘆の息を洩らした。
その時、バタンとドアを閉める音が響いた。
チャンミンが振り返って車の中を覗くと、ユンホが運転席に座っている。
慌てて運転席の窓に駆け寄り、窓をコツコツと叩いた。気づいたユンホが顔をあげ、不思議そうな顔をする。
「ヒョン、運転は僕が。」
ユンホに言われたわけではないけれど、チャンミンはアシスタントとして、仕事中の車の運転は自分がすることに決めていた。
大きな声で言うと、ユンホは首を振り、親指で助手席側を指した。
チャンミンは困って眉を下げたが、ユンホが「早く」と口だけで言うので、仕方なく助手席側へと周った。
「いいの?僕が運転しなくて。」
ドアを開けてそう言えば、ユンホは呆れたように笑って、また首を振る。
「仕事はもう終わり。俺にさせてよ、運転したいんだ。」
「それなら、いいけど…。」
チャンミンは渋々といった感じで、シートに座る。
「1日中ありがとう。チャンミン疲れただろ。」
「そんな、仕事ですから。」
シートベルトを締めながら、今度はチャンミンがゆるゆると首を振る。
「仕事、ね…。」
ぽつりと聞こえた声に、チャンミンは顔をあげた。
正面を向いたユンホの横顔が、どこか寂しげに見える。と思った瞬間、ユンホがチャンミンに向かってにこりと笑った。
寂しげに見えたのは気のせいだったろうかと、チャンミンは首を傾げる。
「良い写真が撮れたよ。風景、久しぶりだったけど楽しかったなぁ。」
そう言いながら、ユンホは車のエンジンをかける。
「何食いたい?」
「僕もヒョンの写真見たい。」
ユンホの問いかけには答えず、チャンミンは思わず言う。
いつもはたくさんの人に囲まれて撮影しているけれど、今日はモデルもいなければスタッフもいない。自由に伸び伸びと、楽しそうに撮っていたユンホの写真をチャンミンはすぐにでも見たかった。
「はは、なんだよ急に。まずは飯ね。俺めちゃくちゃ腹減った。写真はホテルに帰ってから見れば良いよ。」
ユンホは車を発進させながら、どこか嬉しそうに笑った。



海鮮料理をお腹いっぱいに食べた。
「遠慮するなよ。」と言ってユンホが勧めてくれたから、チャンミンはビールを二杯だけ呑んだ。
ふと、もしかしたらチャンミンがビールを呑めるようにユンホは先に運転を代わったのかもしれないと思い、相変わらず甘やかされていることに気恥ずかしくなった。

ホテルへ戻ってシャワーを浴びてから、ユンホが今日撮った写真の一枚一枚をカメラの小さな画面でじっくりと見た。
泊まっているのは、海を目の前にしたリゾートホテル。
シーズンオフでそこまで高くなかったからと、ボアが予約を入れてくれた。
広めのツインルームには大きめのセミダブルベッドが並んでいて、バルコニー側をチャンミンのベッドとしていた。
「はぁ、やっぱりユノヒョンの写真はすごい。…好きだなぁ。」
ベットに腰掛けて写真を堪能していたチャンミンは、一息つくようにこぼした。
隣のベッドに寝転がり、スマホでゲームをしているユンホは、集中していて聴こえていないのか何も言わなかった。
チャンミンはカメラの電源を落として立ち上がると、床に置かれたカメラバッグに丁寧にしまった。
そうしてから、バルコニーに近づいてガラス戸をほんの少し、顔が出せる程度に開けた。
冷たい空気に触れて、チャンミンはふるりと体を震わす。
真っ暗な海から波の音だけが聴こえた。
とても、静かだ。
開けたガラス戸の隙間から顔だけを出す。
たくさんの星が瞬く夜空を眺めながら、波の音に耳を傾けた。

「寒くないの?」
背後から声をかけられ振り返ると、すぐ後ろにユンホが立っていた。
「ヒョンいつの間に…。ちょっと寒いけど、波の音が聴こえてすごく落ち着くよ。星もすごい見える。」
チャンミンはガラス戸をさらに開けた。
「寒っ。」
ユンホはそう言いながらチャンミンの横に並ぶと、同じように顔だけを外に出す。
「…ほんとだ。」
「ね、綺麗でしょ。ソウルじゃ見えないよね…あ。」
チャンミンは何かに気づき、ぐるり夜空を見渡した。
「やっぱり!今日新月なんだね。月がないから星がこんなに見えるんだ。」
そう言った瞬間、触れ合っていたユンホの肩がびくりと揺れた。
不思議に思ってチャンミンはユンホの顔を見る。
間近にあるユンホの横顔は白く、どこか遠い目をしていた。
「ユノヒョン?」
チャンミンの声に、ユンホははっと瞬きをすると、「あ、俺シャワー浴びてくるわ。」そう言ってチャンミンの顔を見ることもなく、部屋に戻って行った。

「変なの…。」
チャンミンは呟くとまた、夜空を見上げ波の音に耳を澄ませた。
しばらくして、さっき見たユンホの遠い目をチャンミンは見たことがあることに気づく。
それはずいぶんと前、好きな人はできないのかと尋ねたときに見せた、あの遠い目に似ていたのだ。


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ひっそり更新。
0時に間に合いませんでした〜。
話が広がりすぎてなかなか進まない…(そして気持ち的に書けない時期もありました…。)
今回の分は、長くなりすぎたうえに書き終わってないので分けました!
後半?は、10として明日アップします。

チャンミンソロ、MVめちゃめちゃいいですね。音もダンスも世界観も。
自粛でおこもり中の私の癒しです。(仕事も先週からリモートワーク)
アルバムの現物はまだ届いてないけど、音源ゲットしたので仕事しながら聴きまくっています。
全部良いけど、LieとNo Tomorrowが私の好みです☺︎
そして銀髪チャンミンのかわいいこと…!
ラジオでの「僕は妻役」発言にも幸せを感じました。笑
ホミンの関係性が本当に好きです。

それではまた明日。
いつも読んでくださってありがとうございます☺︎

アウトフォーカス .08


「おはようございまーす。」
「あら、おはよう。どうしたの?」
チャンミンが翌日の撮影のため、必要な機材を取りに事務所に顔を出すと、ボアが驚いたようにチャンミンを見た。
事務所と言っても6階建の小さなビルの一室。
さほど大きくはない部屋で、事務員として働いてくれているボアはもともとユンホの同郷の友人だ。
事務所と自宅を分ける話が出始めた時期、ボアが結婚を期に転職しようとしていたことを知ったユンホが声をかけたのだった。
小柄で美しく、サバサバとした性格で話しやすいボアに、チャンミンは好感を持っている。
「明日の準備をちょっと…。ボアさんこそ、もう上がる時間じゃないですか?」
チャンミンがちらと壁掛けのアナログ時計に目を向けると、17時を過ぎていた。外はもう暗くなっている。
「そうなんだけど、1件だけメールの返信待たなきゃいけなくって。」
「ダメですよ、ちゃんと定時であがらないと。ユノヒョンがどんどん甘えるんだから。」
「ふふ、そうね。でも今日は、夫も帰りが遅くなるって言ってたからいいの。いつもは定時で帰ってるよ。」
「それならいんですけどね。」
チャンミンは部屋の片隅にまとめられた機材の中から、明日使うであろうものをピックアップし始めた。
「ユノ元気?電話で済ませてばっかりで、なかなか顔出さないんだから。」
呆れたようなボアの問いかけに、チャンミンは、ユンホが一緒に寝てもいいかと言い出した夜を思い出す。
驚いて目を丸くするチャンミンを見て、ユンホはすぐに「冗談だよ。なに本気にしてんだよ。」と言って笑った。
冗談を言っているようには見えなかった。なのにユンホは、そう言って笑ったのだ。
そしてソファーから立ち上がると、膝をついたままのチャンミンの頭をくしゃりと撫で「おやすみ。」と自室に入っていった。

「…ユノヒョン、最近ちょっと様子が変かも。」
ぽつりとこぼせば、「え?なんかあったの?」とボアが声をあげる。
チャンミンは手に取っていた機材を棚に戻すと、ボアの方に体ごと向いた。
ボアは信頼できるし、チャンミンが出会う前のユンホのことも知っている。
「引っ越して、少ししてから夜あまり家に帰ってこなくなったんです。彼女でもできたのかなぁって思ったんですけど。」
「それはないでしょ。」
すかさずボアが返したことに、チャンミンは首を傾げる。
「そんな否定します?だってユノヒョンモテるから…。」
「だから、夜遊び回るのなんてそんなめずらしいことでもないでしょ?」
「…そうですか?こんなに頻繁にはなかったんです。というか、前はほとんど家にいました。出かけても、だいたい日付が変わる時間には帰ってきてたし…。」
「え、そうだったの?私が知ってるユノは、家に帰らず遊び回ってるイメージ。あんまり寝ないから心配になるくらい。」
チャンミンが知らなかっただけで、一緒に住んでいない時期のユンホは、ボアが言うのだからそうだったのだろう。
それならば、除隊後から暮らし始めてチャンミンが大学を卒業するまでの間、ユンホは夜遊びに出ることを我慢していたと言うのだろうか。
新しく引っ越す先のマンションが当たり前にチャンミンと暮らすことが考えられていたから、浮かれてついてきてしまったけれど。
本当は、ユンホはひとりで暮らしたかったのかもしれない。
祖父を亡くし、ひとりぼっちになってしまったと泣いたチャンミンに、ユンホは「ひとりにしたくない。」と言って家に迎え入れてくれた。
ユンホは口にしたことは絶対に、守る。
だからこそ、チャンミンの方からユンホを解放してあげなければいけなかったのではなかっただろうか。
そう思い至った瞬間、チャンミンは腹の底が冷えるような感覚を覚えた。
「…僕のことが、嫌になったのかもしれません。」
「バカね、そんなことあるわけない。」
ボアがはっきりと否定する声に、チャンミンは俯きかけた顔をあげる。
「じゃあ。前の家のときは、僕まだ大学生だったし…僕が可哀想だから、遊ぶの我慢してたのかもしれません。」
チャンミンはお腹の前で、ぎゅうと手を握りしめた。
その手を見つめると、ボアはひとつため息を吐いた。
「…それも違うと思うな。」
「…違う?」
「チャンミンと暮らすこと、チャンミンを守ろうって気持ちがユノを安定させてたんだと、思う。」
「安定って…?」
あの夜、どこに行ってたのかと聞いたユンホの、子供のような心許ない声を思い出す。
「少し前に、電話で話した時ユノが言ってたのよね。チャンミンがだいぶ大人になった、って。私は、良かったじゃないって返したんだけど。なーんか、声が寂しそうだったのよねぇ…。」
「それが?」
「…子が巣立っていく親の気持ち?的な?まぁ、うまくは説明できないけど。」
それはチャンミン自身、心あたりがないわけでもなかった。
学生ではなくなり、祖父の死も受け入れ、いつまでもユンホの庇護に甘えているわけにはいかないと思っているのは確かだ。
写真家として認められ自立したいという気持ちも、ユンホの現場を経験するたびに強くなっている。
「単純に寂しさから遊び回ってるのよ、前みたいに。」
ボアはもっと他に何かを知っているような気がした。きっと、チャンミンが全く知らないユンホの姿。
「…ボアさんは、ミヌって知ってますか?」
「え…ミヌ?…知らないけど、誰?」
チャンミンには、ボアの瞳が微かに揺れたように見えた。しかしボアは知らないと言う。
寝言でユンホが呟いた名前。呟いて、涙を零した。チャンミンの手を強く握って。
「いえ、知らないならいいんです。」
チャンミンはまた、機材の棚に向き直る。
「…ユノは、あなたをすごく大切に思ってるわよ。」
慰めなのか、ボアはそう言うとパソコンのキーボードを叩き始めた。きっと、待っていたメールが届いたのだろう。
「今もそう思ってくれてるならいいんですけど。」
ひねくれた言い方だと思い、チャンミンは自らため息を吐く。
キーボードを叩きながら「バカね。」と返したボアの声は、チャンミンの胸に優しく響いた。




「なーんだ。ユノヒョンじゃなかった。」
ボアが帰ってから30分ほどして、機材を担いだチャンミンは事務所を出た。
鍵をかけていると声がしたので振りけば、そこに立っていたのはいかにもモデルといった様子の、細身で背の高い青年だった。
目にかかるくらいの艶々とした黒髪に、特徴的な大きな瞳。
「あ…シウさん。」
大学生のバイト時代、雑誌の撮影で一度会ったことがある。
ずいぶんとユンホと親しげだったと言う印象があったので、チャンミンは覚えていた。
「…チャンミンさんだっけ?」
「はい。ユノヒョ…ユノさんになにか用事ですか?」
「特に用事があるわけじゃないけど。この時間に電気着いてたから、ユノヒョンいるのかと思ってあがってきただけ。」
「ユノさんは今日来てないんです。」
「あっそう。」
シウの少し刺のある口調に、なんだか敵対視されているような気になった。
居心地の悪さを感じたチャンミンは、この場を早めに去ろうと思い「あの、僕は帰りますので。」と言って、ぺこりと頭を下げる。
「一緒に住んでるんでしょ。ユノヒョンとやってるの?」
突然投げ掛けられた言葉に、チャンミンは一瞬、耳を疑った。下げた頭をあげ、シウの顔を見つめる。
「なにを…?」
チャンミンの答えに、シウが眉を顰める。
「なにをって…、ユノヒョンに抱かれてるのって聞いてんの。」
「…そんなわけないじゃないですか。どうして、そうなるんですか。」
「え?そうなの?だってチャンミンさんゲイでしょ。」
「…なんで。」
「バーで見かけたから。アシスタントやってるうえに一緒に住んでるなんてさぁ。ユノヒョンは恋人作らないって豪語してるし、だからそういう相手なんだろうなって思ってたんだけど。」
「ち、がいます。ユノさんはそうじゃない。僕は…、ゲイ、ですけど。」
チャンミンは最後消え入るような声で言った。見られていたのなら、嘘をついても仕方がない。
ただ、ユンホが疑われるのだけは嫌だった。まさか、自分の行動でそんな風に思われていたなんて。
「ユノさんは違います。それに僕がゲイだって知らないんです、だから。」
「は?知らないの?ユノヒョンが?」
シウは信じられないというような声で言った。
「はい、だから、言わないで欲しい…。」
「…ふーん。じゃあ僕にもまだチャンスはあるってことね。」
「え?」
「ふふ。チャンミンさんこそ知らなかったんだね。」
シウが、さもおかしそうに笑う。
「ユノヒョンてバイなんだよ?僕は抱かれたことあるもん。」
驚いたチャンミンは、目を見開き言葉を失った。
担いでいた機材を入れたバッグが肩から落ちそうになり、震える手で掴み直す。
「そんなに動揺する?ふふ、可哀想。じゃ僕は帰るね。ユノヒョンに電話しよー。」
そう言って去って行くシウの背中を、チャンミンは呆然と眺めた。
知ってるつもりでいただけで、自分はユンホのことを何も知らなかったのではないか。
チャンミンはそのことに一番、ショックを受けていた。



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アウトフォーカス .07


撮影が終わったスタジオの片隅。
チャンミンはしゃがみ込んで機材の片付けをしていた。
「チャンミン。」
自分を呼ぶ声に顔をあげれば、すぐそばにユンホが立っていて少し驚く。
ついさっきまで、離れたところで楽しそうに雑誌編集者と喋っていたのに。
「それ片付けたら、先に帰っていいよ。」
「ユノさん…、今日もですか。」
チャンミンは仕事中、ユンホに対して敬語で話すことにしている。それからヒョンと呼ぶこともしない。
いくら長い付き合いとは言え、仕事で師弟関係がある以上、馴れ合いは嫌だしユンホの威厳も保ちたかった。
それになにより、切り替えが下手な自分への戒めでもある。
ユンホに対する甘えをなくすためにも、そうしたかった。
ユンホは初め、調子が狂うからやめろと反対していたけれど、チャンミンが理由を伝えれば、納得したのかそれからなにも言わなくなった。
「うん。思ったより早く終わったから、ちょっと飲んでく。」
ユンホがちらと視線を向けた先、そこに居た雑誌編集者の女性が、ユンホに向かってにこりと微笑んだ。
チャンミンは気づかれないようにため息を吐く。
「わかりました。」
それ以上はなにも言わず、機材に視線を落としてまた、片付ける手を動かし始めた。

正式にアシスタントになってから、半年近くが経った。
新しいふたりでの暮らしも、けしてうまくいっていないわけではないと、チャンミンは思っている。
しかしユンホはこのところ、夜は家を開けることが多くなっていた。
仕事関係の付き合いや、友人との付き合い。
忙しくてストレスも溜まるだろう。
それを解消したいと思うのは至極当然なのだから、ユンホの好きなようにすればいい。
最初のうちは、とうとう恋人でもできたのだろうかと訝しんだこともあったけれど、それはやはり違っていた。
ユンホはなぜか、昔から恋人をつくらない。
チャンミンの知る限りでは、ただの一度も。
ユンホにはいつも、蟻のように次から次へと女性たちが群がるのに。
その中から後腐れのなさそうな相手は選んでは、適当に遊んでいるだけだった。
そのことに口を挟む気はないけれど、ただ、チャンミンの中ではユンホの人柄とそこがどうしても結びつかない。
ユンホは、深く純粋な愛情を持っている。
チャンミンは身をもってそれを感じているし、チャンミンの祖父に対する接し方を見ていてもそうだった。
だからこそ、その愛情を向ける特別な相手がいたら、その相手はもちろん、ユンホ自身ももっと幸せになれるのにとチャンミンは思っている。
ずいぶんと前に一度だけ、好きな人はできないのかと尋ねたことがある。
その時、ユンホは見たこともないような遠い目をした。
しかしそれはほんの一瞬で、「えー、教えなーい。」とふざけたように言うと「チャンミンは?」とはぐらかされた。
一瞬だけ見せたその遠い目が、チャンミンは今もずっと気になっている。
ユンホが撮る写真のなかに、ほんの少しだけ混じっている寂しさにも似たその目。
いつも前向きで明るいユンホの、表には出さない胸のうちを垣間みたような気がした。
だからチャンミンはそれ以降、同じことを聞けないままでいる。


時刻は、深夜1時を少し過ぎたところだった。
ユンホより先に帰るつもりでいたのに、玄関には既に靴があって、チャンミンはしまったと思う。
安っぽいシャンプーの香りをさせている自分をユンホはどう思うだろうか。

撮影後、先に帰っていいと言われたチャンミンは、一度機材を置きに家に帰ってから、夜の街に出た。
まだ20時と早い時間で、そうそう相手も見つからないだろうかと思ったものの、行きつけのゲイバーに顔を出せば、すぐに声をかけられた。
顔をあげると、何度かしたことのある相手だったから、まぁいいかとそのままホテルへと向かった。
チャンミンには、ユンホの女性関係をとやかく言うことはできない。
自分が抱かれる側というだけで、していることはそうたいしてい変わらないのだから。
ただ、チャンミンは恋人が欲しくないわけではなかった。
ユンホにばれないよう、こういった場所に通っては、相手を探していた。
何人か好きになれそうな人はいたけれど、やはりチャンミンは恋をするという感覚がわからないままだった。
その度に、ミンジュンとのことを思い出す。
あの時も、自分はミンジュンの想いに応えることができなかった。
今も時々誰かに抱かれ、その時だけ愛し愛されているような気にはなるけれど、それは錯覚でしかない。
本当は、胸のうちで燻るユンホへの想いを誤魔化すための行為なのだから。
そしてチャンミンは、そのことには気づかないふりをしている。

リビングのドアを開けると、明かりはついていなかった。バスルームにも気配はない。
もう寝たのだろうかと思いながら、リビングをぐるり見回すと、ソファーに横になっているユンホの姿を見つけた。
音をたてないように近づいて、ソファーの前に両膝をつく。
眠っているであろうユンホの顔を覗き込んだ。
風呂上りなのか、髪の毛が少し湿って見えた。
なにもかけていないので、このまま放っておいたら風邪をひいてしまうかもしれない。
胸のうえに乗せられた手に、チャンミンはそっと触れた。
重ねると余計に、自分の手とユンホの手の大きさの違いがわかる。
「ユノヒョン?」
小さく声をかけ、触れた手で軽くゆする。
「ん…。」
ユンホの眉間にしわが寄り、少し苦しそうな表情になる。
「ヒョン、起きて?」
突然、重ねていたユンホの手が動き、チャンミンの手を握った。
チャンミンは驚いて体を引いたけれど、強く握られた手を解くことはできなかった。
「起きてるの?」
引いた体を戻して、もう一度覗き込む。さっきよりも少し、顔を近づけて。
その時、ユンホの目尻から一筋の涙が流れた。薄暗い部屋のなかでも、それははっきりと見えた。
そしてユンホの口が微かに動き、「ミヌ…。」と息を吐くように呟く。
聞いたことのない名前だった。
チャンミンは、少し動揺した。
ユンホの涙を見たのは初めてだった。
祖父の葬儀の時も、ユンホはチャンミンの前では涙を溢さなかった。
いくら寝ているとは言え、ユンホが泣くなんて。
しばらくぼうっと、涙の流れた跡を眺めていた。
握られた手、ユンホの体温はチャンミンよりも少し高く、温かい。
自然と、チャンミンはその手を握り返していた。
「…チャンミン?」
ぼうっとしていて気づかなかった。
ユンホが目を開けていて、ぼんやりとチャンミンのことを見ている。
「あっ。」
我に返ったチャンミンは、握っていた手をさっと離した。
「…今帰ったの?どこ行ってたの?」
ぼんやりとしたままのユンホは、どこか子供のような、心許ない声で言う。
「ちょ、ちょっと僕も飲みに行ったんだ。ヒョン朝まで帰ってこないと思ってたから。」
「誰と?」
「えっ、と…、ひとりで。」
「ひとり?」
「う、ん…。」
こんなにあれこれと聞いてくるのはめずらしい。
これ以上、なにかに勘付かれても困ると思ったチャンミンは、立ち上がった。
「ほら、ユノヒョン。風邪引くから自分の部屋で寝て。」
そう言いながら、肩をぽんぽんと叩く。
さっきよりもはっきりと目が開いたようなユンホは、ゆっくりと瞬きをした。
「あぁ、うん…。」
そう言って、体を起こす。ソファーの上にあぐらをかいて座ると、首をさげて片手を顔に当てた。
「もしかして、具合悪いの?」
いつもと少し様子の違うユンホが心配になり、チャンミンはまた膝をついた。
ユンホの広い背中にそっと触れ、俯いたその顔を覗き込む。
「いや…。」
「飲み過ぎた?」
ユンホがゆるりと頭を振る。
「…いない。」
「え?」
なにか呟いたユンホの声が聞き取れなくて、チャンミンは聞き返す。
「ひとりで、眠れなくて。」
ユンホが顔をあげる。
「…チャンミン、一緒に寝てもいい?」
長く一緒にいたからわかる。
ユンホが冗談を言ってるようには、見えなかった。


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